カーボンナノチューブ(左図)は下図左のような蜂の巣構造を持つシート状の炭素(グラフェン)を筒状に丸めたものであり、C60はそれを球状に丸めたものである。炭素原子はいずれも三配位構造をとって(ほぼ)平面状に配置している。この配置が安定なのは炭素原子がsp2混成軌道(下図右)をとるからだと高校の理科で習った方も多いのではないか。教科書ではsp2混成軌道どうしが重なり合うように炭素原子が配置するとエネルギーが下がるため、結果的に蜂の巣構造をとるといった説明が与えられている。ではどうして重なり合うとエネルギーが下がるのであろうか。そこまで掘り下げて学んだ方は案外少ないかもしれない。
広い所ではゆったりと動ける
炭素原子に束縛されている時、電子は比較的激しく運動する。運動エネルギーは大きい。しかし、もし隣の炭素原子に通じる軌道(すなわち重なり)があったとしよう。その場合、それを伝って電子が行き来できるため閉じ込めの度合いが弱くなり、その結果運動エネルギーが低下するのである。これが「重なりが増すと安定化する」という機構である。
もちろん重なりが増すということはそこでの電子密度が高まるということなので電子どうしの反発が強まる。また、電子が行き来するということは必然的に原子核から遠く位置することになるため原子核からの引力が弱まる。その結果クーロンエネルギー的には損である。しかしそれを上回る程、運動エネルギーが下がるということであり、総合的には安定化につながるというからくりである。この不確定性原理は直感には反する面があるかもしれないがミクロの世界ではそんなことが起こっている。
このようにミクロの世界では運動エネルギーの効果は極めて重要である。これは古典力学の世界と非常に異なるところである。第一原理計算はこの運動エネルギーを精密にかつ効率的に計算しなければならないためその算法は複雑なものになる。運動エネルギーの計算の詳細については紙面の関係で次回以降の説明にゆずるが、今回は炭素原子の特殊性について一言付け加えておきたい。
2sと 2px, 2py, 2pzの4つの軌道が混成するsp3軌道(左上図)に電子が収容されると三次元のダイアモンド構造が形成される。これに対してsp混成軌道(左下図)に収容されると一次元の鎖状構造が形成される。炭素原子はこれら三、二、一次元構造のエネルギーが拮抗しているため、実に多彩な構造を柔軟にとることができる。これは他の元素にはない炭素の特徴である。ナノテクノロジーを駆使すれば色々な構造を実際に作れるはずで、素材としての可能性は無限に広い。ナノテクの申し子のような元素である。
[※]電子にはスピン自由度(上向きと下向き)があるため、各軌道に二電子まで収容できる。
カーボンナノチューブ(左図)は下図左のような蜂の巣構造を持つシート状の炭素(グラフェン)を筒状に丸めたものであり、C60はそれを球状に丸めたものである。炭素原子はいずれも三配位構造をとって(ほぼ)平面状に配置している。この配置が安定なのは炭素原子がsp2混成軌道(下図右)をとるからだと高校の理科で習った方も多いのではないか。教科書ではsp2混成軌道どうしが重なり合うように炭素原子が配置するとエネルギーが下がるため、結果的に蜂の巣構造をとるといった説明が与えられている。ではどうして重なり合うとエネルギーが下がるのであろうか。そこまで掘り下げて学んだ方は案外少ないかもしれない。
広い所ではゆったりと動ける
炭素原子に束縛されている時、電子は比較的激しく運動する。運動エネルギーは大きい。しかし、もし隣の炭素原子に通じる軌道(すなわち重なり)があったとしよう。その場合、それを伝って電子が行き来できるため閉じ込めの度合いが弱くなり、その結果運動エネルギーが低下するのである。これが「重なりが増すと安定化する」という機構である。
もちろん重なりが増すということはそこでの電子密度が高まるということなので電子どうしの反発が強まる。また、電子が行き来するということは必然的に原子核から遠く位置することになるため原子核からの引力が弱まる。その結果クーロンエネルギー的には損である。しかしそれを上回る程、運動エネルギーが下がるということであり、総合的には安定化につながるというからくりである。この不確定性原理は直感には反する面があるかもしれないがミクロの世界ではそんなことが起こっている。
このようにミクロの世界では運動エネルギーの効果は極めて重要である。これは古典力学の世界と非常に異なるところである。第一原理計算はこの運動エネルギーを精密にかつ効率的に計算しなければならないためその算法は複雑なものになる。運動エネルギーの計算の詳細については紙面の関係で次回以降の説明にゆずるが、今回は炭素原子の特殊性について一言付け加えておきたい。
2sと 2px, 2py, 2pzの4つの軌道が混成するsp3軌道(左上図)に電子が収容されると三次元のダイアモンド構造が形成される。これに対してsp混成軌道(左下図)に収容されると一次元の鎖状構造が形成される。炭素原子はこれら三、二、一次元構造のエネルギーが拮抗しているため、実に多彩な構造を柔軟にとることができる。これは他の元素にはない炭素の特徴である。ナノテクノロジーを駆使すれば色々な構造を実際に作れるはずで、素材としての可能性は無限に広い。ナノテクの申し子のような元素である。
[※]電子にはスピン自由度(上向きと下向き)があるため、各軌道に二電子まで収容できる。